大判例

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東京高等裁判所 平成3年(ネ)4257号 判決

第四二〇六号事件控訴人

石井康雄

右訴訟代理人弁護士

田口康雅

第四二五七号事件控訴人

石井國雄

右訴訟代理人弁護士

林展弘

被控訴人

金子弘子

川崎慶子

岩渕真弓

佐藤芳邦

右四名訴訟代理人弁護士

中井美紀

同訴訟復代理人弁護士

中井真一郎

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

1  別紙物件目録四記載の建物及び同目録二記載の土地の借地権を第四二〇六号事件控訴人石井康雄の所有とする。

2  別紙物件目録五記載の建物及び同目録三記載の土地の借地権について借地権付建物としての競売を命じ、その売得金を第四二五七号事件控訴人石井國雄、被控訴人金子弘子及び同川崎慶子はそれぞれ四分の一、被控訴人岩淵真弓及び同佐藤芳邦はそれぞれ八分の一の割合で分割する。

二  訴訟費用は、第一、二審を通じこれを二〇分し、第四二五七号事件控訴人石井國雄、被控訴人金子弘子及び同川崎慶子はそれぞれその二を、被控訴人岩淵真弓、同佐藤芳邦はそれぞれその一を負担し、その残りを第四二〇六号事件控訴人石井康雄の負担とする。

事実

一  当事者の求めた裁判

1  第四二〇六号事件控訴人石井康雄

(主位的に)

(一) 原判決を取り消す。

(二) 被控訴人らの請求を棄却する。

(三) 訴訟費用は、第一、二審を通じ被控訴人らの負担とする。

(予備的に)

(一) 主文一項と同じ。

(二) 訴訟費用は、第一、二審を通じ被控訴人らの負担とする。

2  第四二五七号事件控訴人石井國雄

(一)  原判決を取り消す。

(二)  被控訴人らの請求を棄却する。

(三)  訴訟費用は、第一、二審を通じ被控訴人らの負担とする。

3  被控訴人ら

(一)  本件各控訴を棄却する。

(二)  控訴費用は、控訴人らの負担とする。

二  当事者の主張

次のとおり付加するほか、原判決事実摘示のとおりである。

1  控訴人石井康雄の当審における主張

共有物分割においては、できる限り目的物を現実に利用している者の生活に配慮して分割するべきものである。本件借地のうち別紙物件目録二の土地上には同目録四の建物が、同目録三の土地上には同目録五の建物が存在しており、右五の建物は空き家であるが、四の建物には、控訴人石井康雄並びにその長男及び次男が居住している。そして、本件借地権のように、面積的にも広く、地上に二棟の建物があって、その敷地毎に独立した利用が可能なものの場合には、借地権を地上建物の敷地毎に分割する方法によることが可能であって、このような現物分割を不可能であるとし、競売により分割するほかないものとした原判決の判断には誤りがある。

右のように現物分割する場合には、控訴人石井康雄が遺留分減殺後も全体の六〇パーセント、そのほかの共有者が全体の四〇パーセントを所有しているのにあわせて、借地の面積の六〇パーセントを控訴人石井康雄が取得し、残りをその他の共有者の共有とするのが公平な分割であるが、そのように分割した場合、分割線が別紙物件目録五の建物にかかり、同建物の一部を取り壊さねばならないこととなるので、これを避けるべく、控訴人石井康雄は、別紙図面記載のように分割線を二つの建物の間に引くことに同意し、取得する面積が全体の55.99パーセントである357.94平方メートルに減少することを承諾するものである。

なお、原審において提出した価額弁償の抗弁は撤回する。

2  控訴人石井國雄の当審における主張

本件遺言公正証書は、遺言者の意思に反する無効のものである。そのことは、遺言者が生前右公正証書の記載内容と異なる意思を表明していたことなどから、明らかである。仮に本件遺言公正証書が遺言者の意思どおりであったとしても、遺言者は、遺産の分割方法として本件不動産を控訴人石井康雄に取得させるよう指定したのみで、控訴人石井康雄以外の相続人の法定相続分については、なんらの変更を加えていないから、控訴人石井康雄は、本件不動産を取得すると同時に、他の相続人に対して、法定相続分に相当する金額の支払債務を負っているものである。

また、本件借地上の二棟の建物は、いずれも控訴人石井康雄の所有名義に登記されている。したがって、本件借地権を現物分割することは不可能である。

3  被控訴人らの当審における主張

本件各控訴状が提出された当時は、当該控訴人代理人が委任を受けていない他の共有者(原審相被告)の名が控訴人として記載されていた。したがって、右他の共有者は適法な控訴人たりえず、必要的共同訴訟において全共有者が当事者となっていないことになるから、それらの控訴は効力を生じないものであって、本件各控訴は、却下されるべきである。

本件借地の境界は、道路境界などが未査定のため明確でなく、現物分割に適しない。また、借地について現物分割をすると、共有物の価値を著しく減じるので、原判決のように一括して競売するべきである。別紙物件目録五の建物は、老朽化して借地権存続が困難である。また、借地権付建物の競売をすると価格が大幅に下落するし、その譲渡所得税を負担しなければならないので、不利である。

地主は、借地の分割を承諾するべき義務はなく、地主の同意がない限り、借地の現物分割をすることはできない。

なお、被控訴人らの本件請求は、本件借地権付建物二棟の分割を求めるものであり、建物だけの分割を求める趣旨ではない。

三  証拠関係〈省略〉

理由

一本件控訴の効力について

本件のように必要的共同訴訟である訴訟において、一審の被告の一人が控訴するに当たり、控訴状に相被告の名を控訴人として記載したからといって、その控訴状が無効となることはなく、本件においては、控訴人石井康雄の控訴(第四二〇六号)に続いて控訴人石井國雄の控訴(第四二五七号)が提起され、両事件が併合されたことにより、全共有者が当事者となったのであるから、被控訴人らの主張は採用することができない。

二本件遺言の効力等について

当裁判所も、原判決と同様に、本件遺言公正証書作成の当時遺言者である石井喜一に遺言の意思が欠けていたとは認められず、本件遺言は有効であり、本件遺言は、相続分の指定の趣旨を含むものであって、遺留分減殺後、別紙物件目録四及び五記載の建物及びその敷地である別紙物件目録一記載の土地の借地権について、控訴人石井康雄は一〇分の六、控訴人石井國雄、被控訴人金子弘子及び同川崎慶子はそれぞれ一〇分の一、被控訴人岩淵真弓及び同佐藤芳邦はそれぞれ二〇分の一の割合で、共有(借地権については準共有)しているものと判断する。

その理由は、次に記載するほか原判決の理由記載と同一であるから、これを引用する。

(控訴人石井國雄の当審における主張について)

原審に提出された〈書証番号略〉が被相続人である石井喜一の作成にかかるものであるとしても、その書面の内容をみると、その書面の作成前に本件遺言公正証書のような遺言をしたことを前提とした文言があるのであって、本件遺言公正証書作成当時、同人に遺言公正証書記載の遺言をする意思がなかったと認めることはできない。そして、本件遺言公正証書に記載された不動産が石井喜一のほぼ唯一の遺産であったという状況のもとでは、これを控訴人石井康雄に相続させるという本件遺言の趣旨は、単に遺産分割の方法を指定するだけでなく、相続分をも指定する趣旨のものであると認めるのが相当であって、この点に関する控訴人石井國雄の主張は採用できない。

三共有不動産の分割方法

共有不動産の分割において競売が許されるのは、現物をもって分割することができない場合であるか、現物分割をすると著しくその価格が減少するおそれがある場合でなければならない(民法二五八条二項)。現物分割を原則とするこの民法の規定は、できる限り目的物を現実に利用している者の生活に配慮して分割するべきであるとの趣旨を含むものである。

本件の場合、借地の形状及び面積は、別紙図面のとおりであって、借地上には公道に面して別紙物件目録四及び五の二棟の建物が建てられていて、右五の建物は空き家であるが、四の建物は控訴人石井康雄一家の住宅として使用されている(当事者間に争いがない。)。そして、それぞれの建物の敷地は、独立した利用が可能であり、それぞれの面積は、ほぼ借地を二分する面積で、少ない方の面積でも約二八〇平方メートルある。このような建物と借地の状況からみるならば、借地を二分してそれぞれ独立した借地関係としても、土地の利用上特段の不利益を関係者に与えることはなく、また、一個の借地である場合に比し、その価格が著しく減少すると認めるべき事情も発見できない(〈書証番号略〉(不動産鑑定評価書)によれば、地上建物は老朽化しているがなお借地権の割合は六五パーセント程度あるものとして評価されている。)。そうであれば、本件共有不動産は、建物とその敷地を基準として現物分割をすることが可能であるといわねばならない。

被控訴人らは、道路境界などが未査定のため借地の範囲が明確でないというが、借地の範囲について地主との間に争いがあるわけではなく、所有権の境界に若干明確でないところがあるとしても、本件の場合、そのために現物分割が困難となるというほどの事情は認められないから、この主張は採用できない。

なお、共有物分割の裁判は、共有者間の法律関係を確定するにとどまり、借地権の(準)共有者と地主との関係を定めるものではない。したがって、右のように借地を現物分割するべき場合に、分割の裁判を受けた借地人と地主との関係は別途に処理されることとなるのであり、本件の事実関係のもとでは、被控訴人らのいうように地主の同意がない限り借地を分割することができないというものではない。

そして、本件各共有者の共有持分の割合が前記のとおりであって、全体の一〇分の六を控訴人石井康雄が所有し、そのほかの共有者は残り一〇分の四を所有している関係にあること及び控訴人石井康雄の利用状況が前記のとおりであることを考慮すると、控訴人石井康雄には別紙物件目録四記載の建物とその敷地である同目録二記載の土地の借地権を、そのほかの共有者には別紙物件目録五記載の建物及びその敷地である同目録三記載の土地の借地権を取得させ(このような分割をすると控訴人石井康雄の取得する借地の面積は全体の六〇パーセントに達しないこととなるが、同人の控訴審における主張のとおり同人はこのことを承諾しているものである。)、後者の共有不動産については、現物分割は不可能であるから、法律の規定に従い、競売を命じ、共有者の持分割合である控訴人石井國雄、被控訴人金子弘子及び同川崎慶子はそれぞれ四分の一、被控訴人岩淵真弓及び同佐藤芳邦はそれぞれ八分の一の割合で、競売の売得金を分配することを命じるのが相当である。地上の二棟の建物が控訴人石井康雄の所有名義であることは、本件借地権を右のように分割することを妨げるものではない。

また、被控訴人らは、一方を現物分割し、他方を競売に付すことが分割の公平を害するかのようにいうが、譲渡所得税の負担の点は、現物分割を受けた不動産を譲渡する場合にも生じることで一方のみの問題ではないし、競売価格の点も、右のように一部競売を行うことにより特に大幅に下落するとは限らないし、競売を命じる裁判は、共有者が協力して競売以外の方法により売却することを禁止するものではないから、この点の主張も採用できない。

四結論

以上のとおりであって、共有不動産全体を競売により分割することを命じた原判決は不当であるからこれを変更し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官佐藤繁 裁判官淺生重機 裁判官杉山正士)

別紙物件目録

一 東京都板橋区向原二丁目一四七〇番一

宅地 634.71平方メートル

二 右一の土地のうち別紙図面イ、ホ、へ、ニ、イの各点を順次直線で結んだ範囲の土地357.94平方メートル

三 右一の土地のうち別紙図面ホ、ロ、ハ、へ、ホの各点を順次直線で結んだ範囲の土地281.28平方メートル

四 東京都板橋区向原二丁目一四七〇番一所在

家屋番号二七番九

木造瓦葺平家建居宅

床面積 99.90平方メートル

(右二の土地上の建物)

五 東京都板橋区向原二丁目一四七〇番一所在

家屋番号二七番七

木造瓦葺平家建居宅

床面積 100.00平方メートル

(右三の土地上の建物)

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